2036年に「医師余り」になる診療科は?

2020年12月12日

医学生や研修医にとって、診療科選択は悩ましいものだと思います。

専門とする診療科を選ぶときにはいろんな要素を考慮すると思いますが、その診療科の「需要と供給」も一つの要素です。「○○科はもう医者が多すぎるからね~今からなるのは微妙じゃない?」なんて言われたら、不安になりますよね…

そこで今回は、僕なりに集めたデータを使って、2036年に「医師余り」になる診療科を予想してみようと思います。

もちろん、未来のことは誰にもわかりません。もし予想が外れても(というか、たぶん外れる)、責任は取りません。また、特定の診療科のポジティブ/ネガティブキャンペーンをするつもりもありません。

これらを踏まえて、ひとつの参考としていただければ幸いです。

結論

まず最初に、結論を示しておきたいと思います。

「過剰率」は(医師数)ー(必要医師数)を(医師数)で割ったものです。

診療科過剰率
皮膚科34%
精神科34%
麻酔科29%
形成外科28%
放射線科26%
眼科21%
耳鼻咽喉科17%
小児科17%
整形外科11%
泌尿器科10%
産婦人科9%
内科4%
脳神経外科-8%
外科-18%

参考資料

資料①:福田昭一 (2019).「診療科別・地域別の医師数の時系列的推移と将来推計」

資料②:医師需給分科会 (2019).「診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台)について」

1996年から2016年の各診療科医師数の推移

まず、資料①から、1996年~2016年の各診療科の医師数の推移を見ていこうと思う。

総数1996年2006年2016年
医師総数230,297263,540304,759
内科総数94,495100,197113,688
小児科13,78114,70016,937
精神科10,09312,47415,609
外科総数26,07023,22424,073
小児外科554661802
心臓血管外科2,0272,5853,137
脳神経外科5,6346,2417,360
整形外科16,42318,87021,293
形成外科1,3071,9092,593
皮膚科6,7967,8459,102
眼科10,98212,36213,144
耳鼻咽喉科8,8348,9099,272
泌尿器科5,1746,1337,062
産婦人科12,42211,78313,154
リハ科9041,8552,484
放射線科4,1924,8836,587
麻酔科5,0466,2099,162
救急科01,6983,244
臨床検査科データなしデータなしデータなし
資料①より、各診療科の医師数の推移

次に、1996年の医師数を1としたときの増減率を示す。ただし、救急科は2006年の医師数を1とする。

増減率1996年2006年2016年
医師総数1.0001.1441.323
内科総数1.0001.0601.203
小児科1.0001.0671.229
精神科1.0001.2361.547
外科総数1.0000.8910.923
小児外科1.0001.1931.448
心臓血管外科1.0001.2751.548
脳神経外科1.0001.1081.306
整形外科1.0001.1491.297
形成外科1.0001.4611.984
皮膚科1.0001.1541.339
眼科1.0001.1261.197
耳鼻咽喉科1.0001.0081.050
泌尿器科1.0001.1851.365
産婦人科1.0000.9491.059
リハ科1.0002.0522.748
放射線科1.0001.1651.571
麻酔科1.0001.2301.816
救急科1.0001.910
臨床検査科データなしデータなしデータなし
資料①より、各診療科の医師数の増減率
資料①より、各診療科の医師数の増減率のグラフ

このデータでまず特筆すべきことは、「外科総数」がすべての診療科の中で唯一、減少したということだろう。外科は不人気なイメージがあるが、それが数字にも現れている。また、リハビリテーション科と救急科が大きな増加を示しているが、これはこれらの科がまだ歴史が浅いからであると考えられる。

さて、リハ科と救急科を除いて、増加率が高い診療科TOP5を挙げてみると、形成外科、麻酔科、放射線科、精神科、心臓血管外科となっている。特に2006年~2016年の10年間に注目すると、形成外科、麻酔科、放射線科の増加率はかなり高い。

一方、外科総数を除いて、増加率が低い診療科TOP5を挙げてみると、耳鼻咽喉科、産婦人科、眼科、内科総数、小児科となっている。産婦人科、小児科の増加率が低いのは、世間でもよく言われていることであり、イメージ通りである。

しかし、意外なのは耳鼻咽喉科と眼科で、かなり低い増加率となっている。これらの科は、「近年の医学生・研修医は、楽な科を志望しがちである」という文脈において、真っ先に挙げられる科であるが、実態は真逆となっている。耳鼻咽喉科に至っては、産婦人科よりも増加率が少ない

理由として考えられるのは、初期臨床研修制度の開始により、必修ではないマイナー科に興味が持たれなくなったことなどだろうか。

2016年から2036年の必要医師数

 さて、今度は資料②から、2016年~2036年において必要となる各診療科の医師数を見ていこうと思う。

必要医師数2016年医師数2016年必要医師数2024年必要医師数2030年必要医師数2036年必要医師数
内科112,978122,253127,446129,204127,167
小児科16,58718,62017,81317,21216,374
精神科15,69115,43714,91914,59814,003
外科29,08534,74134,91634,60533,448
小児外科外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む
心臓血管外科外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む
脳神経外科7,7139,0219,78910,17010,235
整形外科22,02923,18224,37424,68024,022
形成外科3,3213,4313,4483,4173,303
皮膚科8,6858,3767,9997,6957,270
眼科12,72412,05412,33612,29311,830
耳鼻咽喉科9,1758,9678,6218,3457,946
泌尿器科7,4268,3208,5998,6538,429
産婦人科12,63214,81113,62412,93812,165
リハ科2,3992,4892,5192,5122,439
放射線科6,9317,0617,1477,1266,918
麻酔科9,49610,07610,12610,0369,701
救急科3,6564,2504,3024,2894,164
臨床検査科567632639638619
資料②より、各診療科の必要医師数の見通し

まず注意したいのは、資料②では「外科」の中に「小児外科」と「心臓血管外科」が含まれていることである。また、資料②「2016年医師数」は、資料①の「2016年医師数」と微妙に違っている。これは集計方法の違いなどによると考えられるが、おおよそ同じであるので、特に気にしないことにする。

このデータの「2016年必要医師数」は、もし仮にその診療科の医師が適切な労働時間で働いたときに必要になる医師数である(詳しい計算方法は僕も把握していません)。つまり、「2016年必要医師数」が「2016年医師数」よりも多い診療科では、医師一人あたりの労働時間が長すぎるので、より多くの医師が必要であるということである。

また、「2024年必要医師数」、「2030年必要医師数」、「2036年必要医師数」は将来の人口動態の予測に基づいて、その診療科の需要の変化を考慮しているようである(これも詳しい計算方法はわかりません)。例えば、小児科は少子化を考慮して、必要医師数が減少傾向となっている。

さて、ここでわかりやすいように、各年の必要医師数から「2016年医師数」を引き算して、過不足を出してみようと思う。

医師数過不足2016年医師数2016年過不足2024年過不足2030年過不足2036年過不足
内科112,9789,27514,46816,22614,189
小児科16,5872,0331,226625-213
精神科15,691-254-772-1,093-1,688
外科29,0855,6565,8315,5204,363
小児外科外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む
心臓血管外科外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む
脳神経外科7,7131,3082,0762,4572,522
整形外科22,0291,1532,3452,6511,993
形成外科3,32111012796-18
皮膚科8,685-309-686-990-1,415
眼科12,724-670-388-431-894
耳鼻咽喉科9,175-208-554-830-1,229
泌尿器科7,4268941,1731,2271,003
産婦人科12,6322,179992306-467
リハ科2,3999012011340
放射線科6,931130216195-13
麻酔科9,496580630540205
救急科3,656594646633508
臨床検査科56765727152
資料②より、各年の必要医師数から「2016年医師数」を引く

これを見ると、内科外科は大幅に不足している。一方、眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科・精神科といったいわゆるマイナー科はかなり余っていることになる。これは、マイナー科はメジャー科に比べて労働時間が短い傾向があるからだろうか。

ただし、ここで注意すべきことが一つある。それは、このデータには2016年以降の各診療科の医師数の増加が全く考慮されていないことである。

そこで、資料①のデータから、2016年~2036年の各診療科の増加率を予測し、いよいよ2036年に各診療科の医師数がどれだけ過不足しているのかを算出したいと思う。

2036年に飽和する診療科は…

 まず、資料①から、各診療科の医師数が1996年から2016年の間に何人増加したかを算出する。

1996年からの変化数1996年医師数2006年2016年
医師総数230,29733,24374,462
内科総数94,4955,70219,193
小児科13,7819193,156
精神科10,0932,3815,516
外科総数26,070-2,846-1,997
小児外科554107248
心臓血管外科2,0275581,110
脳神経外科5,6346071,726
整形外科16,4232,4474,870
形成外科1,3076021,286
皮膚科6,7961,0492,306
眼科10,9821,3802,162
耳鼻咽喉科8,83475438
泌尿器科5,1749591,888
産婦人科12,422-639732
リハ科9049511,580
放射線科4,1926912,395
麻酔科5,0461,1634,116
救急科01,6983,244
資料①より、各診療科医師数の1996年に対する変化数

そして、この1996年~2016年の変化数と同じだけの変化が2016年~2036年にも起こると仮定する。例えば、内科は1996年~2016年の間に19,193人増えたので、2016年~2036年にも19,193人増えると仮定するのである。

なお、外科の変化数は「外科総数」と「小児外科」と「心臓血管外科」の合計とする。また、医師全体数の増加数は、2016年~2036年では1996年~2016年よりも大きくなる可能性がある(医学部定員の増加などによる)。それに伴い、実際の各診療科の医師増加数は予測よりも大きくなる可能性が高いが、それは考えないことにする。

必要医師数2016年医師数2036年必要医師数2036年予測医師数2036年予測過不足2036年予測過不足率
内科112,978127,167132,1715,0044%
小児科16,58716,37419,7433,36917%
精神科15,69114,00321,2077,20434%
外科29,08533,44828,446-5,002-18%
小児外科外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む
心臓血管外科外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む外科に含む
脳神経外科7,71310,2359,439-796-8%
整形外科22,02924,02226,8992,87711%
形成外科3,3213,3034,6071,30428%
皮膚科8,6857,27010,9913,72134%
眼科12,72411,83014,8863,05621%
耳鼻咽喉科9,1757,9469,6131,66717%
泌尿器科7,4268,4299,31488510%
産婦人科12,63212,16513,3641,1999%
リハ科2,3992,4393,9791,54039%
放射線科6,9316,9189,3262,40826%
麻酔科9,4969,70113,6123,91129%
救急科3,6564,1646,9002,73640%
臨床検査科567619データなしデータなしデータなし
資料①から得た2036年予測医師数と、資料②の2036年必要医師数から、各診療科の過不足率を算出

これが、この記事で最も出したかった数字である。「2036年予測過不足率」は「2036年予測過不足」を「2036年予測医師数」で除したものであるが、この数字こそがこの記事の結論である。じっくり見ていこう。

歴史が浅い救急科とリハ科を除くと、皮膚科と精神科が34%でツートップである。これらの科は1996年~2016年で大きく増加し、労働時間もすでに短めである。飽和しつつある、と言えるかもしれない。

次のカテゴリーとしては、麻酔科(29%)・形成外科(28%)・放射線科(26%)である。ただし、形成外科に関しては、資料②において美容外科の需要が全く考慮されていないと思われる点には注意すべきである。

その下のカテゴリーに入るのは、眼科(21%)・耳鼻咽喉科(17%)・小児科(17%)である。眼科と耳鼻咽喉科は、何かとやり玉に挙げられることが多い科であるが、近年の不人気を見ると、そこまで飽和するわけではないかもしれない。また、小児科は少子化もあり、需要が減ってくると考えられる。

そのさらに下のカテゴリーに入るのは、整形外科(11%)・泌尿器科(10%)・産婦人科(9%)である。これらはあまり余らない科、と言えるだろう。整形外科と泌尿器科に関しては、高齢化により需要が増えていきそうではある。産婦人科は、2000年代の、外科にも匹敵するほどの不人気を考えると、意外と持ち直している印象である。

そして、最も飽和しない、むしろ不足するカテゴリーに入るのは、内科(4%)・脳神経外科(-8%)・外科(-18%)だ。ただ、内科外科に関しては多様なサブスペシャリティをまとめて集計しているので、その内訳をみると、「飽和するサブスペシャリティ」はあるのかもしれない。例えば、外科の中でも心臓血管外科は1996年から2016年の間に1.5倍に増えている。

結論

結論は以下のようになりました。

  • かなり余る…皮膚科、精神科
  • けっこう余る…麻酔科、形成外科、放射線科
  • 余る…眼科、耳鼻咽喉科、小児科
  • そんなに余らない…整形外科、泌尿器科、産婦人科
  • 余らない、むしろ不足する…内科、脳神経外科、外科

今気づいたのですが、病理診断科については資料①にデータがなかったのもあって、まったく触れずに終わってしまいました…。すみませんでした。

この記事が皆さんの参考になれば幸いです。

それではまた!